11月30日~ 12月13日
※火曜日、水曜日は休館(祝日の場合は営業し、翌平日が休館)
拳と祈り
—袴田巖の生涯—
©Rain field Production
2014年3月、東京拘置所。死刑囚の袴田巖さんが、突如釈放された。1966年6月に静岡県で味噌会社専務一家4人が殺害され、放火された事件の犯人とされ、47年7ヶ月もの獄中生活を送ってきた。明日突然、死刑が執行されるかもしれない。そんな恐怖の日々をくぐり抜け、30歳の青年は78歳になっていた。着の身着のままワゴン車で東京拘置所を後にした時、本作監督の笠井千晶が助手席でまわすカメラが捉えたのは、まるで夢から覚めたような袴田さんの表情だった。死刑囚が再審開始決定と同時に釈放されるという、驚くべき事態を当日のニュースは劇的に報道した。その夜、半世紀近く引き裂かれていた姉と弟が枕を並べた。拘置所の壁に隔てられ、想像を絶する苦難を生き抜いたものの、奪われた時間は戻らない。なぜこれほどの試練が与えられなければならなかったのか。言葉にしがたい悲しみや喪失を2人の寝息が静かに包み込む。さらに続くことになる司法との闘いを覚悟しながら、カメラは2人の生活を記録し、対話を重ね、袴田さんの心の内面深くに迫っていく。
プロボクサーとして青春を駆け抜けた袴田さんは30歳で突然、逮捕された。無実の訴えは裁判所、そして世間からも黙殺された。そんな過酷な状況下でも、リングに上がり拳ひとつで闘った遠い記憶は、生き抜くための支えとなっていた。やがて袴田さんは獄中で、自らを「神」と名乗り始める。一方で、釈放され故郷・浜松に戻ってからもボクサーとしての記憶が袴田さんの足を思い出の地へと向かわせる。弟の無罪を信じて闘ってきた秀子さんは、そんな巖さんを明るく見守り、「この映画は、笑ってるとこでも泣いてるとこでも、私は真実のものを伝えてくれればいいと思ってます」と語る。生きて歩く死刑囚——。その存在は、権力によって覆い隠されてきた「死刑」という刑罰の残酷さを、白日のもとに晒す。そして、時に人の理解を超えた袴田さんの言動が意味するものとは何なのか。映画は、やがて一つの答えにたどり着く。
釈放から10年の節目に完成する本作は、死刑囚のまま生きることを強いられた、袴田巖さんの闘いの軌跡だ。22年間にわたって袴田さんを追い続けてきた笠井監督は現在もカメラを回し続けている。そして、2024年9月26日の再審無罪判決を見届け、いよいよ劇場公開される。
(上映時間:159分)